建設業の手形取引はなぜ廃止される?業界特有の背景や資金繰り対策法を解説

手形廃止は、紙の約束手形を段階的に廃止する取り組みで、政府主導で進められている政策です。2026年度末までに段階的に進められる予定で、現在は金融業界を中心に取り組まれています。現在でも、約束手形を利用している企業もあり、運転資金の確保や電子化の対応など、建設業界への影響も懸念されています。
本記事では建設業における手形廃止の背景や課題、メリットについて解説します。代替決済手段「でんさい」の活用法や資金繰り対策についてもまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
建設業の手形廃止とは?

建設業における手形廃止は、2026年度末までに紙の約束手形を段階的に廃止する政府主導の取り組みです。
下請法では従来から「下請事業者への支払期日は成果物受領日から60日以内」と定められていました。しかし、2024年11月からは約束手形・電子記録債権・一括決済方式の決済期間(振出日から満期日まで)も、一律60日以内に短縮されました。
新基準により、60日を超える手形サイトでの支払いは下請法違反として行政指導の対象となります。大手ゼネコンをはじめ、建設業界全体で新基準への対応が進められています。
建設業の手形廃止で元請け企業が直面する課題
元請け企業は手形廃止により、支払いサイクルの短縮化に対応するための資金調達と業務変更、支払い条件の見直しという課題があります。
支払期間短縮による運転資金確保の必要性
元請け企業は支払期間の短縮により、従来より多くの運転資金を確保する必要に迫られています。90日〜120日だった約束手形の支払期日が60日以内に短縮されることで、同じ工事量でも必要な運転資金が大幅に増加します。
元請け企業にとって、発注者からの入金と下請け企業への支払いのタイミングのズレが拡大する点も課題です。建設業界では発注者からの入金が遅れがちな中、下請けへの支払いを早める必要があり、資金調達が急務となる可能性があります。
新たな決済システム導入に伴う業務フローの変更
元請け企業は手形廃止に伴い、新たな決済システムを導入する必要があるため、業務フローの変更が課題点としてあげられます。システム導入には初期費用だけでなく、債権・債務管理や支払業務フローなど社内の業務フロー全体の見直しが必要です。
経理部門だけでなく、購買・工事・営業など、複数の部門にまたがる業務連携の再構築をしなくてはいけません。移行期間中は紙の手形と電子決済の二重管理が発生するため、ミスを防ぐための社内体制の構築という課題もあります。
取引先との支払条件の見直しが発生
元請け企業は手形廃止に伴い、すべての取引先との支払条件を見直す必要があるという課題に直面しています。長年続いてきた手形取引から新たな決済方法への移行には、取引先との丁寧な協議と合意形成が不可欠です。
支払条件の見直しでは、下請法や建設業法の規制強化を踏まえた適正な条件設定が求められます。60日ルールの導入により、これまで活用していた手形が使えなくなるため、取引先との新たな支払条件の設定が必要となります。
建設業の手形廃止で下請け企業が得られるメリット
下請け企業にとって手形廃止は、以下のメリットがあります。
- 売上発生後の早期資金回収
- 手形割引手数料や取立手数料などのコスト削減
- 不渡りリスクの解消
詳しく解説します。
売上発生後の早期資金回収
下請け企業は手形廃止により、工事完了後の資金回収期間が大幅に短縮されます。手形サイトが60日以内に短縮されれば、資金の回転率が向上し、同じ売上高でも必要な運転資金が減少します。
早期資金回収は日々の資金繰りの安定化だけでなく、新たなビジネスチャンスへの対応力を高める点もメリットです。急な発注時に必要な資材調達資金や人件費の確保がスムーズになり、ビジネスの機会損失を防ぎます。
手形割引手数料や取立手数料などのコスト削減
下請け企業は手形廃止により、手形割引手数料や取立手数料などの金融コストを削減できます。
銀行振込や電子記録債権に移行した場合でも、振込手数料や電子記録債権の利用手数料が発生する場合があります。ただし、手形特有の割引手数料や取立手数料は不要です。
紙の手形は紛失や盗難のリスクがあり、厳重な管理が必要でしたが、電子的な決済手段への移行で管理負担が軽減されます。削減されたコストは本業への再投資や従業員の待遇改善など、企業の競争力強化に活用できます。
不渡りリスクの解消
下請け企業は手形廃止により、手形不渡りによる突発的な資金不足のリスクがなくなります。建設業界では元請けの経営悪化による手形不渡りが発生すると、下請け企業の連鎖倒産を引き起こす危険性があります。
銀行振込や電子記録債権への移行により、支払い確実性が高まり、経営の安定性が向上する点もメリットです。不渡りリスクを考慮した資金計画の余裕分を、事業拡大や技術開発などの投資に回せます。
建設業の手形廃止後の主要決済手段「でんさい」
建設業の手形廃止後の主要決済手段として、でんさい(電子記録債権)が注目されています。でんさいは紙の手形と同様の機能を持ちながら、電子化によるセキュリティ向上や事務効率化が可能な決済手段です。
でんさいは全国銀行協会が運営する「でんさいネット」を通じて、インターネットバンキングで利用できます。紙の手形と異なり紛失や盗難のリスクがなく、保管コストも不要で、分割譲渡や期日前の資金化も柔軟に行える点も強みです。
手形と比較して手数料が安く、支払企業・受取企業双方にメリットがあるため、建設業界での普及が進んでいます。
建設業の手形廃止に伴う資金繰り対策

建設業の手形廃止に伴う資金繰り対策は、企業の立場によって異なるアプローチが必要です。具体的な対策方法は以下の通りです。
- 資金繰り計画の見直しを行う
- 下請法を活用して取引先との支払条件を見直す
- 公的融資制度や金融機関の支援策を活用する
詳しく解説します。
資金繰り計画の見直しを行う
手形廃止に向けた資金繰り計画の見直しは、現状分析から始める必要があります。元請け企業は支払いサイト短縮による追加資金需要を算出し、調達手段を検討しましょう。
下請け企業は、資金回収の早期化による余剰資金の活用方法を計画します。金融機関との早期相談を通じて、融資枠の見直しや新たな資金調達手段の検討を進めることが大切です。
下請法を活用して取引先との支払条件を見直す
下請け企業は下請法の規定を活用して、元請け企業との支払条件交渉を有利に進めることが可能です。下請法では親事業者の遵守事項として、60日以内の支払いや手形サイトの短縮が義務付けられています。
交渉の際は、法令遵守の観点から支払条件の見直しを提案することで、対等な立場での協議ができます。一方的な要求ではなく、双方にとって合理的な移行計画を提案することが、円滑な交渉のポイントです。
公的融資制度や金融機関の支援策を活用する
手形廃止に伴う資金繰り対策として、公的融資制度や金融機関の支援策を積極的に活用すべきです。日本政策金融公庫の企業活力強化資金や信用保証協会の保証付き融資など、中小企業向けの低金利融資制度が利用できます。
金融機関は手形廃止に対応するために、専用融資商品や支援サービスを提供しています。メインバンクだけでなく複数の金融機関と関係を構築し、最適な条件での資金調達を検討することが重要です。
まとめ
建設業における手形廃止は、2026年度末までに段階的に進められる重要な制度変更です。元請け企業は資金負担増という課題に直面する一方、下請け企業は資金回収の早期化というメリットがあります。
手形廃止を単なる規制対応ではなく、業務効率化や取引適正化、資金繰り改善の機会と捉えることが重要です。このような建設業界の変化に対応するには、新たなビジネスパートナーとの関係構築も重要になってきます。
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