
【2025年版】建設業の労働者派遣法を徹底解説!禁止業務と例外、請負との違い、罰則まで

建設業では労働者派遣法により、現場での「建設業務」への派遣が原則禁止されており、違反すれば厳しい罰則が科せられます。
本記事では、禁止の理由から例外的に派遣が可能な業務、混同しがちな「請負」との違い、そして万が一の罰則までを徹底解説します。コンプライアンスを守りながら人手不足を解消する方法もご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

建設業における労働者派遣は原則「禁止」
結論から申し上げると、労働者派遣法において、建設現場の作業に従事する「建設業務」への労働者派遣は原則として禁止されています。これは、建設業界の特殊な労働環境や雇用構造を考慮した上での重要なルールです。
人手不足が深刻な建設業界ですが、「知らなかった」では済まされない厳しい罰則も設けられています。
そのため、事業者様はなぜ禁止されているのか、どのようなケースが違反にあたるのかを正しく理解することが不可欠です。
なぜ建設業では派遣が禁止されているのか?
建設業で派遣が禁止されている主な理由は、労働者の雇用を安定させ、安全を確保するためです。建設現場は重層的な下請構造で成り立っており、ここに派遣労働が加わると、誰が労働者の安全管理や雇用に対して責任を負うのかが曖昧になりかねません。
また、かつては中間搾取(ピンハネ)が問題となった歴史的背景もあります。派遣という形態を認めることで、こうした問題が再燃し、労働者の雇用不安や技能向上の阻害につながることを防ぐ目的があるのです。
対象となる「建設業務」とは?
法律で派遣が禁止されている「建設業務」とは、建設現場で直接、工事に従事する作業を指します。
具体的には、土地の掘削、足場の組み立て、鉄筋や型枠の施工、コンクリートの打設、塗装、配管、電気工事といった、現場での物理的な作業全般が含まれます。
また、これらの作業の準備や後片付けなども建設業務の一部です。重要なのは、現場で建物を造ったり、壊したり、直したりする作業そのものが対象であると理解することです。
建設業でも労働者派遣が認められるケース
建設業務への労働者派遣は禁止されていますが、建設業に関わる全ての職種で派遣が不可能というわけではありません。法律で禁止されているのは、あくまで現場での「建設業務」に限られます。
そのため、現場作業に該当しない職種であれば、労働者派遣を受け入れることが可能です。ここでは、建設業の現場やオフィスで活躍できる、派遣が認められている代表的な職種について具体的にご紹介します。
派遣OKな職種①:事務職(一般事務・経理など)
建設会社のオフィスや現場事務所内で行う事務作業は、「建設業務」には該当しないため、労働者派遣が認められています。
例えば、電話応対や書類作成、ファイリングといった一般事務、請求書処理や経費精算を行う経理・財務、社会保険手続きなどを行う総務・人事などがこれにあたります。
現場作業とは明確に区別されるこれらのバックオフィス業務は、派遣社員に任せることで、社員がコア業務に集中できるといったメリットが期待できるでしょう。
派遣OKな職種②:CADオペレーター・設計
設計図面の作成や修正を行うCADオペレーターや、建築士事務所などで行われる設計業務も、現場作業ではないため労働者派遣が可能です。
CADオペレーターは、設計者の指示のもと、専門的なソフトを駆使して図面を作成する職種であり、建設プロジェクトにおいて不可欠な存在です。これらの専門職は、現場での物理的な作業とは異なるため、禁止されている「建設業務」には含まれません。
専門スキルを持つ人材を、必要な期間だけ派遣で確保する企業も少なくありません。
「施工管理」の派遣は業務内容の切り分けが重要
施工管理(現場監督)の派遣は、その業務内容によって可否が分かれるため、特に注意が必要です。工程管理、品質管理、安全管理に関する書類作成や、関連各所との調整といった純粋な「管理業務」は派遣が認められます。
しかし、派遣された施工管理者が、現場の作業員に対して直接的な作業指示を出したり、自ら作業を行ったりすると「建設業務」とみなされ違法となります。
あくまで管理に徹する必要があり、業務内容の明確な切り分けが極めて重要になることを覚えておきましょう。

「偽装請負」とは?派遣と請負の決定的な違い

建設業務への派遣が禁止されていることから、その抜け道として行われがちなのが「偽装請負」です。これは、契約形式は「請負」でありながら、その実態が「労働者派遣」になっている違法な状態を指します。
両者の最も大きな違いは、仕事の進め方に対する「指揮命令権」が誰にあるかという点です。この違いを理解せずに安易に人材を受け入れると、意図せず偽装請負とみなされる可能性があるため、事業者様は細心の注意を払わなくてはなりません。
「指揮命令関係」の有無が判断の分かれ目
派遣と請負を区別する最大のポイントは、「指揮命令関係」の有無です。労働者派遣では、派遣先の企業が派遣スタッフに対して、直接業務の指示を行います。
一方、請負契約では、発注元の企業は、請負会社の仕事の完成に対して対価を支払う契約です。そのため、請負会社のスタッフへの業務指示は、その請負会社の責任者が行わなければなりません。
発注元の担当者が、請負会社のスタッフに直接指示を出した時点で、それは偽装請負と判断される可能性があります。
偽装請負とみなされる具体的なケース
偽装請負と判断されやすい代表的なケースとして、発注元が請負会社のスタッフの勤怠管理を行っている場合が挙げられます。始業・終業時刻の指示や残業命令、休日取得の管理などを発注元が行うと、指揮命令下にあるとみなされます。
また、請負会社の責任者が現場に不在で、発注元の社員が作業手順や人員配置を直接指示しているケースも典型的な偽装請負です。契約書が請負でも、実態が伴っていなければ違法状態となるので注意が必要です。
【派遣元・派遣先別】 もし違反した場合の罰則
労働者派遣法に違反した場合、労働者を送り出した派遣元事業者と、受け入れた派遣先企業の双方に厳しい罰則が科せられます。単なる行政指導にとどまらず、懲役や罰金といった刑事罰の対象となる可能性もある重大なコンプライアンス違反です。
「人手が足りなかった」「法律をよく知らなかった」という言い訳は通用しません。企業の信頼を大きく損なうことにもつながるため、どのような罰則があるのかを正確に把握しておきましょう。
派遣元事業者(派遣会社)への罰則
建設業務へ労働者を派遣するなど、労働者派遣法に違反した派遣元事業者には、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される可能性があります。
また、これに加えて、厚生労働大臣から事業改善命令や事業停止命令、さらには労働者派遣事業の許可取り消しといった重い行政処分を受けることもあります。一度許可を取り消されると、その後5年間は新たに許可を得ることができず、事業の存続そのものが危うくなるでしょう。
派遣先企業(建設会社)への罰則
違法な派遣労働者を受け入れた派遣先企業も、派遣元と同様に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。
さらに派遣先には、「労働契約申込みみなし制度」が適用される点も重要です。これは、違法派遣と知りながら労働者を受け入れた場合、派遣先がその労働者に対して、派遣元と同じ労働条件で直接雇用の申し込みをしたとみなされる制度です。意図しない直接雇用義務が発生する、非常に重いペナルティといえます。
コンプライアンスを守りながら人手不足を解消する3つの方法
建設業における労働者派遣のルールは厳しいですが、法律を守りながら人手不足を解消する方法は存在します。
違法な手段に頼ることは、企業の信用を失うだけでなく、事業継続のリスクにも直結しかねません。コンプライアンスを遵守することは、企業の持続的な成長の土台となります。
ここでは、法律に則って人材を確保するための代表的な3つの方法をご紹介します。
方法①:正社員・契約社員の直接雇用(求人広告・紹介)
人手不足を解消する最も基本的かつ健全な方法は、正社員や契約社員として直接雇用することです。求人サイトへの広告掲載や、人材紹介サービスの活用、ハローワークへの求人提出など、様々な手段で募集活動ができます。
直接雇用は、長期的な視点で人材を育成し、技術やノウハウを社内に蓄積できるという大きなメリットがあります。企業の将来を担う人材を確保するためにも、まずはこの直接雇用を積極的に検討することが重要になるでしょう。
方法②:必要な業務のみを切り出す「業務委託」
自社で対応しきれない業務を、外部の専門業者に任せる「業務委託(請負契約)」も有効な手段です。
例えば、足場工事一式、内装工事一式といったように、特定の工種を丸ごと専門の会社に依頼する方法です。これにより、自社の社員はよりコアな業務に集中できます。
ただし、前述の「偽装請負」にならないよう、業務の指揮命令は委託先の責任者が行う体制を徹底することが絶対条件です。契約内容と現場での運用方法をしっかりと管理する必要があります。
方法③:専門スキルを持つ「一人親方」との連携
特定の分野で高い専門スキルを持つ「一人親方」と請負契約を結ぶことも、有効な人材確保策の一つです。
一人親方は労働者ではなく個人事業主であるため、労働者派遣法の規制対象外となります。即戦力となる高い技術力を、必要な期間だけ確保できるのが大きなメリットです。
ただし、この場合も「偽装請負」には細心の注意が必要です。一人親方に対して、社員のように直接的な指揮命令を行うことはできませんので、対等な事業者としての関係性を保つことが求められます。
労働者派遣法を正しく理解し、健全な事業運営を
今回は、建設業における労働者派遣法のルールについて解説しました。建設業務への労働者派遣は原則禁止であり、違反した場合は派遣元・派遣先の双方に厳しい罰則が科せられます。
その一方で、事務職やCADオペレーターといった職種では派遣が認められており、適法な「請負契約」を活用することで、外部の力を借りることも可能です。人手不足という課題に対し、法律を正しく理解し、コンプライアンスを遵守することが、企業の信頼と持続的な成長を守ることに繋がります。
