建設業界におけるDXとは|必要性や導入のポイントを解説

最近よく耳にする「建設DX」という言葉。具体的にどのような取り組みで、自社にどのようなメリットをもたらすのか、詳しく知りたいと思いませんか?
この記事では、建設DXの基本的な定義から、なぜ今注目されているのかという背景、導入によって得られる具体的なメリット、現場での活用事例、そして推進する上での注意点まで、網羅的に分かりやすく解説します。建設業界の未来を考える上で、ぜひご一読ください。
建設DXとは

建設DXとは、建設業界における「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」を指す言葉です。
これは、単に新しいITツールやソフトウェアを導入することだけを意味するのではありません。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、BIM/CIM(※)、ドローン、ロボットといった先進的なデジタル技術を、設計、測量、施工、検査、維持管理といった建設生産プロセスのあらゆる段階で活用し、業務の進め方や働き方、さらにはビジネスモデルそのものを根本から変革していく取り組みです。これにより、建設業界が直面する課題を解決し、産業全体の魅力と競争力を高めることを目指しています。
なぜ建設DXが必要なのか
建設業界においてDXの推進が強く求められている背景には、業界特有の深刻な課題がいくつか存在します。最も大きな要因の一つが、少子高齢化に伴う担い手不足です。特に若年層の入職者が減少し、熟練技術者の高齢化が進む中で、将来的な労働力確保と技術の継承が喫緊の課題となっています。
また、他産業と比較して労働生産性の向上が遅れているという指摘もあり、業務効率化は待ったなしの状況です。加えて、2024年4月から適用された時間外労働の上限規制への対応や、より一層の安全確保、品質向上のためにも、デジタル技術の活用が不可欠と考えられています。
建設DXの導入状況
建設DXへの注目度は年々高まっており、国土交通省が推進する「i-Construction」といった施策も、その導入を後押ししています。現状としては、大手ゼネコンなどを中心にBIM/CIMの導入やICT施工技術の活用が進展していますが、多くの中小企業においては、まだ導入が部分的であったり、これから検討を始める段階であったりすることも少なくありません。
しかしながら、人手不足の深刻化や働き方改革関連法の施行といった外部環境の変化を受け、生産性向上への危機感は急速に高まっています。そのため、企業規模に関わらず、DX導入に向けた動きは今後さらに活発化していくと予想されます。
建設DXに取り組むメリット
建設DXの推進は、企業にとって短期的な業務改善だけでなく、中長期的な成長につながる多くのメリットをもたらします。デジタル技術を活用することで、これまで当たり前とされてきた業務プロセスや働き方を見直し、より効率的で安全、かつ魅力的な産業へと変革していくことが可能です。
具体的には、生産性の向上、人手不足問題への対応、スムーズな情報共有や技術継承、そしてデータ活用による新たな価値創造などが期待できます。以下で、これらのメリットについて詳しく見ていきましょう。
業務効率化によって生産性がアップする
建設DXがもたらす最も分かりやすいメリットの一つが、生産性の向上です。例えば、ドローンを用いて短時間で広範囲の測量を行ったり、ICT建機が設計データに基づいて自動で施工を行ったりすることで、従来よりも大幅に作業時間を短縮し、省人化を図ることができます。
また、BIM/CIMを活用すれば、設計段階での干渉チェックや、施工段階での関係者間のスムーズな情報共有が可能となり、手戻りやミスの削減につながります。こうした業務効率化の積み重ねが、プロジェクト全体の生産性を飛躍的に高めるのです。
人手不足の解消が期待できる
深刻化する人手不足という課題に対しても、建設DXは大きな貢献を果たす可能性があります。ICT建機や建設ロボットなどを導入することで、危険な作業や単純作業を自動化し、より少ない人数で工事を進めることが可能になります。
また、遠隔での現場監視や指示、オンラインでの打ち合わせなどを活用すれば、場所を選ばない柔軟な働き方も実現しやすくなるでしょう。さらに、デジタル技術を駆使する先進的な働き方は、建設業のイメージアップにもつながり、若年層を中心とした新たな人材の獲得にも寄与すると期待されます。
技術や情報共有がスムーズにできる
建設プロジェクトは、設計者、施工者、発注者など、多くの関係者が関与します。建設DXは、これらの関係者間のコミュニケーションと情報共有を円滑化します。
例えば、BIM/CIMモデルや関連書類をクラウドプラットフォームで一元管理すれば、全員が常に最新の情報にアクセスでき、認識の齟齬や伝達漏れを防ぐことができます。これにより、迅速かつ的確な意思決定が可能となるでしょう。
また、熟練技術者の持つ高度な技術やノウハウを、動画やVRといったデジタル形式で記録・共有することで、若手への効率的な技術継承も促進されます。
データの活用によるさらなる発展ができる
建設DXの取り組みが進むと、設計、施工、維持管理の各段階で様々なデータが蓄積されていきます。これらのデータを分析・活用することで、建設業はさらなる発展を遂げる可能性を秘めています。
例えば、過去の工事データや現場のセンサー情報を分析することで、より精度の高い施工計画の立案や、潜在的なリスクの予測が可能になります。また、建物の維持管理データを活用して最適な修繕計画を立てたり、収集したデータを基に新たなサービスやビジネスモデルを創出したりすることも考えられるでしょう。データは企業の競争力を左右する重要な経営資源となります。
建設現場で導入されるDXの例
建設DXは、具体的なデジタル技術の活用によって現場を変えています。測量から設計、施工、維持管理に至るまで、様々な場面で新しいツールやシステムが導入され、従来のやり方では難しかった効率化や高精度化を実現しています。ここでは、建設現場で実際に導入が進んでいる代表的なDX技術の例をいくつかご紹介します。これらの技術がどのように活用されているかを見ていきましょう。
BIM/CIM
BIM/CIM(※)は、建物の柱や壁、設備などの3次元形状情報に、部材の名称や寸法、コスト、維持管理に必要な情報などを付加したデータモデルを作成・活用する仕組みです。設計段階でこのモデルを使えば、完成形を立体的に把握しやすく、関係者間の合意形成が円滑になります。
また、部材同士の干渉を事前にチェックしたり、必要な資材数量を正確に算出したりすることも可能です。施工や維持管理段階での情報活用も容易になり、プロジェクト全体の効率化と品質向上に貢献します。
ドローン
ドローン(無人航空機)は、その機動性と空撮能力を活かし、建設現場の様々な場面で活躍しています。従来、多くの人手と時間を要した広範囲の地形測量や、工事の進捗状況の記録などを、短時間かつ安全に行えます。
また、橋梁や法面など、人が容易に近づけない高所や危険箇所の点検・調査にも威力を発揮します。ドローンで取得した高精細な画像や点群データは、3次元設計データの作成や出来形管理、施工計画の検討などに幅広く活用されています。
IoT・ICT建機
建設機械の分野でもDXは進んでいます。機械に搭載されたセンサーが稼働状況や位置情報を収集し、インターネットを通じてデータを送る「IoT建機」や、設計データに基づいて機械の動きを制御する「ICT建機」が普及しつつあります。IoT技術により、機械の効率的な配備計画や、燃料消費量の最適化、故障の予兆検知などが可能になります。
一方、ICT建機は、GNSS(全地球航法衛星システム)等で位置を補正しながら、設計通りに高精度な掘削や敷きならしを行うことができ、熟練オペレーター不足を補い、生産性を向上させます。
クラウド
クラウドサービスは、インターネットを介してデータ保管スペースや様々なソフトウェア機能を利用できるサービスです。建設業界では、日々増え続ける図面、写真、各種書類といった大容量データを、関係者間で効率的かつ安全に共有・管理するために広く活用されています。
事務所、現場、協力会社など、場所や時間を問わず最新の情報にアクセスできるため、情報伝達の迅速化、認識の齟齬防止、ペーパーレス化などに貢献します。プロジェクト管理や勤怠管理などのツールもクラウド型が増えています。
AI・機械学習
AI(人工知能)や機械学習の技術も、建設現場の様々な課題解決に貢献し始めています。
例えば、ドローンで撮影した大量の現場写真や監視カメラ映像をAIが解析し、工事の進捗度を自動で判定したり、コンクリートのひび割れなど微細な不具合箇所を検出したりするシステムが実用化されています。
また、過去の類似工事データや気象情報などを学習し、工事の遅延リスクを予測したり、最適な人員・資機材の配置計画を提案したりすることも可能です。
DXを導入する際の注意点
建設DXは多くのメリットをもたらす一方で、導入を成功させるためには注意すべき点もいくつかあります。単に新しい技術を導入すれば良いというわけではなく、事前の準備や導入後の運用体制が重要になります。
特に以下の点は、多くの企業が直面しやすい課題であり、あらかじめ認識しておくことが大切です。これらを考慮せずに進めると、期待した効果が得られない可能性もあります。
従業員が使いこなせるかどうかに注意する
最新のデジタルツールやシステムを導入しても、現場で実際に業務を行う従業員がそれを効果的に使いこなせなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。
特に、これまでアナログな手法に慣れ親しんできた従業員にとっては、新しい操作方法を覚えることに抵抗を感じる場合もあるでしょう。導入前後の丁寧な研修やマニュアル整備はもちろんのこと、できるだけ操作が直感的で分かりやすいシステムを選定することが重要です。
また、導入プロセスにおいては、従業員の意見を吸い上げ、現場の実態に即した運用ルールを検討する姿勢も求められます。
DX導入の設備費用がかかる
建設DXの推進には、多くの場合、相応の初期投資や継続的なコストが発生します。高性能なパソコンやタブレット端末、専用ソフトウェアのライセンス費用、ドローンや3Dレーザースキャナーといった計測機器、ICT建機の導入・リース費用など、内容によっては大きな負担となります。
加えて、クラウドサービスの月額利用料や、システムの保守・アップデート費用といったランニングコストも考慮しなければなりません。導入によって得られる効果(生産性向上、コスト削減、品質向上など)を具体的に試算し、費用対効果を見極めることが不可欠です。
DXを導入するための人材確保が必要
DXを推進し、その効果を最大限に引き出すためには、それを支える人材が欠かせません。新しいツールやシステムを操作できる現場の従業員を育成することはもちろん重要です。
それに加えて、自社の課題を分析し、どのようなデジタル技術を導入すべきか企画・推進できる人材や、導入したシステムを適切に管理・運用できるITスキルを持った人材、さらには収集したデータを分析して経営に活かせるデータサイエンティストのような専門人材の必要性も高まっています。社内育成と並行し、外部専門家の活用や中途採用なども視野に入れる必要があるでしょう。
建設業がDXを導入するための手順
建設DXを効果的に進めるためには、場当たり的な導入ではなく、戦略的かつ段階的なアプローチが推奨されます。
一般的な手順としては、まず「自社がDXによって何を達成したいのか」という目的やビジョンを明確に設定します。次に、現状の業務プロセスやIT環境を分析し、課題とDX化の可能性を洗い出します。その上で、目的に合致し、課題解決に貢献する具体的な技術やツールを選定し、導入計画(予算、スケジュール、推進体制など)を策定することが重要です。
計画に基づき導入と従業員への教育を実施し、導入後はその効果を定期的に測定・評価し、改善を繰り返していくというPDCAサイクルを回していくことが成功の鍵となります。
まとめ
この記事では、建設DXの基本的な概念から、その必要性、導入によって得られるメリット、現場で活用される具体的な技術例、そして導入を進める上での注意点や手順について解説してきました。
建設DXは、BIM/CIMやドローン、AIといったデジタル技術を駆使することで、生産性向上、人手不足の緩和、技術継承といった建設業界が抱える積年の課題を解決し、産業全体の持続的な発展を支える可能性を秘めています。
ただし、その導入にはコストや人材育成といった側面も伴うため、自社の状況と目的をしっかりと見据え、計画的に取り組むことが何よりも重要です。
