建設業の倒産が増加している理由 | 2024年はここ10年で最多の倒産数

「なぜ今、建設業の倒産が増えているの?」
「自社は大丈夫だろうか?」
建設業の倒産件数は増加傾向にあり、2024年にはここ10年で最多を記録しています。一方で業界全体では、新型コロナ以降の低迷期からは回復しつつあるとされ、復調の兆しがみられています。それではなぜ、建設業の倒産が増えているのでしょうか。
この記事では、建設業における倒産が増加している背景と、その具体的な理由を詳しく解説します。さらに、企業がこの厳しい状況を乗り越えるために取り組める対策についてもご紹介。現状への理解を深め、今後の備えを考えるための一助となれば幸いです。

建設業の倒産は増加している
近年、建設業界における倒産の件数が増加傾向にあるという報告が相次いでいます。帝国データバンクや東京商工リサーチなどの調査機関によると、特に2022年以降、倒産件数が増加に転じ、その後も高い水準で推移している状況です。
また、東京商工リサーチのデータによれば、2024年の倒産件数は1,942件で、2015年以降で最多を記録しました。
この背景には、単一の理由ではなく、後述するような複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられます。特に、経営基盤が比較的弱い中小企業においては、これらの外部環境の変化が経営を直撃しやすく、事業継続が困難になるケースが目立っています。
一方で、新型コロナウイルス以降の建設需要の回復など、業界としての復調の兆しも見られます。倒産の要因となる要素を分析し、苦境を乗り越える対策が必要です。
参考文献
建設業の倒産 過去10年間で最多 資材高、人手不足に「2024年問題」が追い打ち|東京商工リサーチ
建設業の倒産が増加した理由
建設業で倒産が増えている背景には、経済全体の動向に加え、建設業界特有の課題が複合的に影響しています。例えば、以下のような問題が考えられます。
- 建築資材の高騰・原材料不足
- 輸送コストが増加した
- 人手不足が加速した
- 人件費の負担が増えた
- 住宅関連の需要が落ち着いた
- 工期が長期化した
- 融資の負担が増加した
これらの要因が相互に作用し、特に資金繰りに余裕のない企業や、変化への対応が遅れた企業の経営を圧迫している状況です。以下では、倒産増加につながる主な理由を具体的に見ていきます。
建築資材の高騰・原材料不足
ウクライナ情勢の長期化や円安の進行などを背景に、木材、鉄骨、セメントといった主要な建築資材の価格が高騰しています。いわゆる「ウッドショック」や「アイアンショック」と呼ばれる現象に加え、エネルギー価格の上昇も資材コストを押し上げる要因となりました。
また、半導体不足は給湯器や空調設備などの納入遅延を引き起こし、工期全体に影響を与えるケースも発生しました。これらの急激なコスト上昇分を、受注時の請負金額に適切に転嫁できない場合、企業の利益は大幅に圧迫され、赤字工事となるリスクが高まります。
輸送コストが増加した
建築資材や建設機械などを工事現場へ運ぶための輸送コストも、建設会社の経営を圧迫する要因の一つです。
原油価格の高騰は、トラックなどの燃料費を直接的に押し上げました。さらに、物流業界全体が抱えるドライバー不足や、いわゆる「2024年問題」に代表される労働時間規制の強化なども、輸送コストの上昇圧力となっています。
これらのコストは、最終的に工事全体の費用を増加させ、利益を確保することをより困難にしています。特に地方の現場など、輸送距離が長くなる場合に影響が大きくなる傾向があります。
人手不足が加速した
建設業界では、以前から労働者の高齢化と若年層の入職者減少による人手不足が深刻な課題でした。近年、この問題はさらに加速しているのが現状です。
団塊世代の大量退職時期を迎え、熟練した技術やノウハウを持つ人材が現場から去っていく一方で、若手の確保・育成が追いついていません。
人手が不足すると、受注したくても施工体制を組めなかったり、無理な人員配置で現場の負担が増加したりします。結果として、工期の遅延や施工品質の低下を招くリスクもあり、企業の競争力低下にもつながりかねません。
人件費の負担が増えた
深刻化する人手不足に対応するため、多くの建設会社では人材の確保・定着を図るべく、賃金の引き上げや福利厚生の充実といった待遇改善を進めています。これは必然的に人件費の上昇につながります。
加えて、社会保険への加入徹底や、2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制への対応なども、実質的な労務コストの増加要因となっています。これらの人件費負担の増加は、企業の利益率を低下させる大きな要因となり、経営の自由度を狭めることになります。
一方で、労働環境や待遇面の改善は、人材の獲得や定着につながる取り組みでもあります。そのため、必ずしもデメリットばかりではないということに注意しましょう。
住宅関連の需要が落ち着いた
低金利政策や巣ごもり需要などを背景に活況を呈していた新設住宅着工ですが、近年はその勢いに陰りが見られます。
資材価格の高騰による建築コストの上昇で、住宅価格自体が高額になっていることが一因です。また、将来的な金利上昇への警戒感なども、消費者の住宅購入マインドを慎重にさせている可能性があります。
特に、新築戸建て住宅やアパート建設などを主力事業とする中小の工務店にとっては、受注機会の減少が直接的に経営状況の悪化につながるリスクがあります。
工期が長期化した
建築資材の納入遅延や、現場作業員の人手不足は、工事全体のスケジュールに遅れを生じさせる大きな原因となります。必要な資材が届かなければ工事を進められず、作業員が足りなければ予定通りに工程を消化できません。
また、近年のコンプライアンス意識の高まりから、安全管理や各種申請・検査などに以前よりも時間を要するケースも増えています。工期が長期化すると、その分、現場の維持管理費や人件費などの間接費用が増加します。
契約内容によっては、工期の遅延に対するペナルティが発生する可能性もあり、これも収益を圧迫する要因です。
融資の負担が増加した
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業を支援するために導入された、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」ですが、その返済が本格化しています。
多くの企業がこの制度を利用しましたが、業績が回復しないまま返済時期を迎えた企業にとっては、資金繰りが急激に悪化する要因となり得ます。
また、世界的な金融政策の転換に伴い、日本でも金利が上昇する局面に入りつつあります。これにより、今後の新規借入コストが増加するほか、変動金利で融資を受けている場合は返済負担が増す可能性があり、企業の財務状況をさらに圧迫することが懸念されます。

建設業が倒産を回避するための対策

建設業界を取り巻く経営環境は厳しいものがありますが、企業が主体的に取り組むことで倒産リスクを低減させることは可能です。外部環境の変化にただ流されるのではなく、自社の経営体質を見直し、強化していく姿勢が重要です。
具体的には、以下の取り組みが考えられます。
- 工事原価に合わせた受注金額の見直し
- デジタル化による作業の効率化
- 人手不足解消を目指した働き方改善
- 資金繰りの見直し
以下では、倒産を回避するために有効と考えられる主な対策について解説します。
工事原価に合わせた受注金額の見直し
資材価格や労務費、輸送コストなどが変動しやすい現在では、過去の経験則や慣例に基づいた見積もりでは、採算割れを起こす危険性が高まっています。
まずは、工事ごとに最新の市場価格を反映した正確な原価計算を行うことが大切です。その上で、適正な利益を確保できる受注金額を設定し、提示することが求められます。
時には、採算が見込めない案件については受注を見送るという経営判断も必要になるでしょう。適切な価格交渉を行うための情報収集や交渉力の強化も重要となります。
デジタル化による作業の効率化
建設業界においても、ICT(情報通信技術)やデジタルツールの活用は、生産性向上とコスト削減の鍵となります。
例えば、BIM/CIMのような3次元モデルを活用すれば、設計・施工段階での情報共有が円滑になり、手戻りやミスの削減が期待できます。また、現場管理アプリ、ドローンによる測量、遠隔臨場システムなどを導入することで、現場作業の省力化や移動時間の短縮、情報伝達の迅速化が可能です。
これらのデジタル化への投資は、中長期的に見て人手不足への対応や競争力強化につながるでしょう。
人手不足解消を目指した働き方改善
建設業界の持続的な発展のためには、次世代を担う人材の確保・育成が不可欠であり、そのためには働きがいのある環境づくりが急務です。
長時間労働の是正や週休2日制の定着、有給休暇の取得促進といった労働条件の改善は、従業員の定着率向上に直結します。また、安全で快適な職場環境の整備、資格取得支援などの教育制度の充実、女性や高齢者、外国人材など多様な人材が活躍できるダイバーシティの推進も重要です。
魅力ある職場づくりが、結果的に人手不足の緩和につながります。
資金繰りの見直し
企業の血液とも言われるキャッシュ(現金)の流れを適切に管理することは、経営の安定に不可欠です。
特に建設業は、工事の完成・引き渡しから入金までに期間を要することが多いため、資金繰り表を作成し、将来の入出金を予測・管理することが重要です。売掛金の回収サイト短縮に向けた交渉や、手形取引の見直し、不要な在庫や遊休資産の売却なども検討すべきでしょう。
また、ゼロゼロ融資などの返済計画を確実に実行するとともに、平時から金融機関と良好な関係を築き、いざという時に備えておくことも大切です。
まとめ
本記事では、建設業の倒産が増加している背景にある様々な理由と、企業が取り組むべき対策について解説しました。
資材や人件費の高騰、人手不足といった課題は深刻ですが、工事原価に見合った価格設定の見直しやデジタル化による効率化、働き方改善、資金繰りの見直しなど、打つ手がないわけではありません。現状を正しく認識し、自社に合った対策を早期に検討・実行することが、今後の事業継続において重要となるでしょう。
